【運用管理の勘所⑤】「稼動管理」とは?

2011年4月12日ITIL Foundation,運用管理

システムマネジメントサービス部の佐藤です。

「運用管理の勘所」第5回目は「稼働管理」について解説します。

「稼動管理」とは?

「稼動管理」とは

システムの目標とするサービスレベルを維持するためには、システム全体が予定通り稼動している必要があります。通常の規定、手順に基づく運用業務を正常に実施し続けることが重要です。そのための管理を稼動管理と呼びます。

稼動管理の目的は次の2点です。
・システムのアウトプット納期(TAT: turn around time)の遵守
・可用性の確保

稼動管理は通常、次の3項目を管理することによってシステムを安定的に稼動させ、アウトプット納期の遅延や、トラブルによるシステム停止を防止し、サービスレベルを維持することによってシステムの信頼性を確保します。

スケジュール管理

システムの正常稼動を維持するためには、

  • 業務要件に基づいたシステムの稼動スケジュールを作成し、これに従って運用すること
  • システムの運用にかかわる業務をスケジュール化し、これを実施すること
  • 上記業務に影響を与えない期間に、定期点検、予防保守、変更作業を実施すること

が重要です。これらをスムーズに実施するためにスケジュールを一元管理することは、システムを運用していく上で不可欠なポイントです。この管理をスケジュール管理と言います。

オペレーション管理

スケジュールに基づきコンピューターシステムを稼動させ、各種業務を正常に処理し、出力された情報をタイムリーに利用部門に提供するためには、オペレーション業務を確実に実施することが重要です。そのための管理をオペレーション管理と呼びます。

稼動監視

リアルタイムでシステム稼動状況を把握し、障害発生の検知と連絡を正確かつ迅速に行うための管理が稼動監視です。これによりシステムの可用性を高めることが可能となります。

【スケジュール管理】必要なときに必要な処理を計画どおりに実施する

システムを計画どおり安全に稼動させるための基本は、スケジュール管理が正しく行われることです。管理のポイントは以下のとおりです。

  • システム稼動日/停止日の明確化
    必要に応じてシステム停止日を設定することは、システム運用の信頼性を高めるために不可欠な項目といえます。システム停止日は、法定点検、定期保守、システム変更などの、通常運用中にはできない作業項目をスケジュールします
  • 業務スケジュールの決定
    業務要件にあわせてシステムの稼動日を決め、さらにその詳細スケジュールを作成します。一般的には1年単位にマシン稼動日を決定し、年次スケジュールを確定し、その後、月次スケジュール、日次スケジュールという流れで確定していきます
  • 自動化ツールの活用
    スケジュールに基づいた運用には自動化ツールを使用することが一般的です。これにより管理負荷や人為的ミスを軽減することができます

【オペレーション管理】アウトプットをタイムリーに利用者に提供する

システムのアウトプット納期(TAT)を遵守するには、システムを正常に稼動させるためのオペレーション管理が重要となります。

  • 運用マニュアルなどの手順書を作成し、常に最新状態を維持すること
  • 運用スケジュールに基づく業務処理を確実に実行し、異常時には必要な対処を行うこと
  • 入力媒体、データを準備し適切に管理すること
  • 出力媒体、データを保管管理し、利用者へ正確に配布すること
  • コンピューターオペレーションを正確に実施すること

このようなオペレーション業務を安定的、効率的に行うためには、手順化/標準化を推進することがポイントです。さらにオペレーションの問題や課題を把握し、適切な改善を継続的に行っていくことも必要です。

【稼動管理】異常を迅速に検知する

システムの可用性を確保するためには、異常発生時に迅速に対応し、システム停止を回避するか、停止時間を極力短くすることが重要です。そのためには迅速に異常を検知する稼動監視が必須となります。管理上の重要ポイントとして、

  • 異常事態を掌握するために、まず通常の稼動状況を正確に把握しておくこと
  • 障害発生時に迅速な検知と連絡を行うこと
  • 障害の局所化に努めること

があげられます。システム稼動状況の正確な把握や監視には、人手による対応では限界があります。そこでシステム監視や回復のためのツールを利用することにより、システム監視の自動化をはかり、異常検知、連絡を迅速/正確に行えるようにすることが望まれます。

体制

稼動管理を実施する上での責任者・担当者などの体制を整備し、各担当の役割を明確化することにより、より円滑に運用を進めることが可能となります。下表次ににその例を示します。

名称と主な役割

  • 稼動管理責任者
    • システム運用における全責任を負う(例:システム運用部長)
  • 稼動管理担当者
    • 稼動管理を行う。担当組織内の全運用管理業務に責任を負う(例:システム運用課長)
  • 各管理担当
    • スケジュール管理、オペレーション管理、稼動監視における全体コントロールを行う。各種調整・連絡・確認会招集などを実施する(例:システム運用担当者)
  • 各運用担当
    • 各々の運用を実施する(例:アプリケーションおよびシステム運用担当者)

スケジュール管理

スケジュール管理対象

スケジュールを管理する際に基本となるのは、

  • システム稼動日 (通常運用)
  • システム停止日

です。システム稼動日においては、

  • 業務オンライン
  • 業務バッチ
  • 運用管理バッチ

などの通常運用処理のスケジュールを管理します。また、システム停止日においては、

  • 法定点検
  • 定期保守
  • システム変更

などの、通常運用中にはできない作業項目を対象とします。

スケジュール作成

スケジュールを決定するには、まず、マシン稼動日を確定し、確定した各マシン稼動日の詳細スケジュールを下表次のように決定します。

マシン稼動日の確定

次の優先順序で決定していく。

  1. 業務要件
    • サービス開始前に利用者と運用者で取り決めた利用可能時間帯、デリバリー時刻や計画停止スケジュールなどを基準とする
  2. 臨時対応
    • SLAで特に定めていない一時的・臨時的な状況を考慮すべき場合には、付加要件としてスケジュールに組み込む
  3. システム停止をともなう要件
    • 稼動に関する要件が揃った上で、システム変更や定期保守など、停止すべき要件を決定する

業務スケジュール決定

マシン稼動日をもとに、どの業務をいつ実施するかをスケジュールする。

  • 業務スケジュール
    • 業務ごとに定められている実施条件に基づいて決定する。一般的には企業の営業日を決める1年単位でマシン稼動日を決定し、これにそって年次スケジュール作成後、月次スケジュール、日々の運用 (つまり日次スケジュール) に落とし込む
  • 年次スケジュール
    • 遅くとも、年次開始月の月次スケジュール作成に間に合うようなタイミングで確定する。例えば、月次スケジュールを前月20日に作成する場合、年次スケジュールは20日以前までに確定する。負荷が高くなりやすい休暇前後や月末月初は、業務調整が可能であれば負荷分散する
  • 月次スケジュール
    • 年間を通してのスケジュールを作成した後、個別調整が入ることを考慮し、前月半ば前後に月次スケジュールの最終化を行うことが望ましい。その際、ピーク時負荷分散を考慮する。運用業務のスケジュールは、業務スケジュール確定後、負荷バランスを考慮し、時間的制約がない処理は余裕のある時間帯にスケジューリングする

スケジュールに基づいた運用の実施

確定したスケジュールに基づき運用を実施しますが、人手によるスケジュール管理は困難であり、ミスによるトラブル発生の可能性も高くなります。そのため、定常運用においては、自動運用ツールを利用してスケジュールの作成/変更/実施を一連の流れで行うことが一般的です。

オペレーション管理

オペレーション管理には、以下の作業項目があります。各項目を標準化し、誰が行っても同様の処理ができるようにしておくことが主旨です。

オペレーション運用管理

運用 (オペレーション) マニュアル、手順書などの作成、維持

  • オペレーション業務全般にわたり、信頼性が高く効率的な運用を実施していくため、オペレーション手順などを定めたマニュアルを作成し維持する
  • オペレーション業務は、マニュアルに従って遂行されなければならない。運用マニュアルに従った作業を行うことにより、正確な処理や効率的な運用を実現することができる
  • 各作業の手順化、マニュアル化にあたっては、可能な限り自動化し、作業の安全性、正確性を高める必要がある

作業内容や手順の改善

  • オペレーション作業内容・手順は常時見直し、問題がある場合は、改善を実施する

オペレーション実施管理

  • 消耗品 (用紙、テープ、プリンタリボンなど) の在庫管理
  • オペレーション作業の実行管理
    • 運用スケジュールに基づいて、システムの操作指示などのオペレーション指示を定められた体制にしたがって実施する。操作にあたっては操作指示書でオペレーターに指示し、実施結果の確認も行う
  • 引継ぎ
    • オペレーションの要員交替時には、運用管理者やオペレーターの引継ぎを確実に行う。担当したオペレーション作業がすべて完了したかを、操作指示書で確実に引継ぐことが重要

業務処理管理

オペレーション業務の、実際の実施状況を管理します。

業務処理の実行管理

運用スケジュールに基づく業務処理依頼の管理を指す。

  • 運用スケジュールに基づき、オペレーターへの作業依頼書を作成し、業務実施を依頼する
  • 作業依頼書には、依頼側と受理側の確認欄を設け、手続きと作業内容が確認されたことを明確にしておくとともに、処理後は回収して実績管理を行えるようにしておく

作業実績管理

作業実績の管理は、業務処理およびオペレーション作業の両面から管理していくことが必要である。

  • 業務処理の実績確認内容
  • オペレーション作業の作業実績管理

入出力データ管理

データの入出力、媒体および帳票の管理方法を定め、取り扱い方法や受け渡し方法を規定します。データ入出力作業の作業手順書を作成し、それぞれの作業が確実に実施されているかを管理する必要があります。

入力データ管理

入力データ管理者を定め、入力データに関する以下の内容を管理します。

  • 入力データの種類
  • 入力データの到着
  • 処理開始の指示
  • 処理後の入力媒体の取り扱い

出力データ管理

出力データ管理者を定め、出力データに関する以下の内容を管理します。

  • 出力データ取り扱い
  • 出力データの保管 (詳細は入出力媒体の保管管理)
  • 出力媒体の発送
  • 出力帳票の確認
  • 利用者への送付

入出力媒体の保管管理

データの正確性の確保や、データ紛失・盗難防止のため、データ保管規定を定め、正しくデータ保管を行います。

データの保管

  • 保管管理台帳の作成
  • データ保管 (含外部保管)
  • 保管物の品質管理

データ保管室の入出庫管理

  • 入出庫管理方法
    • 入出庫に関する管理作業は、データの保全やセキュリティ向上の観点からも重要である。管理者や担当者の業務分担を明確に定めることにより、データ管理を厳密に行う
  • 定期棚卸
    • データ保管室は保管物の品質維持や、紛失および書類上の手続きの漏れなどを検査するため、定期的に保管物の内容と管理台帳を照らし合わせ、保管状況の確認と報告を行う必要がある。作業サイクルは保管物の量や種類により異なる。

オペレーション業務に使用する運用マニュアル (例)

業務運用マニュアル

  • 業務の内容を正しく認識するためのマニュアル・・・ネットフロー図、ジョブフロー図
  • 業務を運用する作業手順を示すマニュアル・・・ジョブ処理手順書、入出力データ作成手順書、業務作業指示書、業務処理確認書
  • 異常発生時に作業手順を確認するマニュアル・・・異常時対応手順書

システム運用マニュアル

  • オペレーターに対し定常的な作業手順を示すマニュアル・・・オペレーション指示書、作業手順書
  • 運用管理担当者およびオペレーターに機器の操作手順を示すマニュアル・・・機器操作マニュアル
  • 異常発生時に作業手順を確認するマニュアル・・・障害対応手順書

稼動監視

稼動監視の目的は、リアルタイムでの稼動状況の把握と、障害発生の検知と迅速な連絡です (※)。そのために稼動監視は以下の手順で実施します。
※一次対応以降については問題管理、また、中長期的な稼動状況の把握については性能管理の管理項目と位置付けられます。

管理項目と管理内容の決定

項目と内容

  • 対象
    • 対象となるハードウェアおよびソフトウェア、業務アプリケーションなど
  • 監視内容
    • どのような状況を異常と見なして警告するかなど
  • 異常検知方法
    • 異常と見なされる状態の検知方法、警告など コンソールメッセージの高輝度化、音声での通知など、異常を見過ごさないような工夫が必要
  • 連絡先
    • 異常検知時に検知者が報告すべき先など 定期的な見直しが必要

通知体制の整備

内容

  • 即時対応要否と対応遅延の影響の明確化
  • 通報先とその内容

検知・通報に関する考慮事項

  • 検知から通報まで一気になされること
  • 検知は、視覚・聴覚の双方で認識できること
  • 検知された状況が、一次対応者に必ず通報されるしくみ
  • 検知者が通報後、通報受諾状況を受け取れるしくみ

稼動監視の実施

あらかじめ稼動監視対応手順書、稼動監視一覧、通報先一覧などのマニュアルを作成しておき、定められた手順に従って稼動監視を行います。

いかがでしたでしょうか。次回は「変更管理」について紹介します。

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