

属人化を解消する仕組み作り – プロジェクト管理の視点を変える
こんにちは。システムマネジメントサービス1部 クラウドサービスチームの斉藤信次です。 エンジニアからプロジェクトマネジメント(PM)を担当するようになり、現場のチーム運営や育成の仕組みづくりに携わっています。
この記事の結論(先に要点だけ)
- チームのマネジメント力を底上げする鍵は、スキルやツールの前に「個人戦からチーム戦へ」という前提を切り替えることにあります。
- 論理的思考力を共通言語にすることで、メンバーが自律的に動ける組織に近づきます。
- 仕組みやツールの導入は、文化・前提をそろえてから仕組みやツールを導入する方が、定着しやすいと考えています。
はじめに:「結局、個人の頑張り」という限界
プロジェクトの締め切り前になると、一部の経験豊富なメンバーに負荷が偏り、そのノウハウが個人の中にとどまったまま次のプロジェクトへ引き継がれない―。SES(システムエンジニアリングサービス)や IT 業界の現場では、こうした状況に心当たりのある方も多いのではないでしょうか。
「PMなのだから、もっと効率的に管理すべき」と言われても、仕様変更やタスクの調整だけで手一杯になりがちです。新しいツールを導入する予算や、体系立った知識をチーム全体に浸透させる時間が十分に取れないケースも少なくありません。
しかし、変えるべきは必ずしも「スキル」や「ツール」ではなく、チームが共有している「前提」です。本稿では、私たちのチームが実際に取り組んだ、マネジメントを特定の個人に依存させない仕組みづくりのプロセスを紹介します。
今回紹介する取り組みは、私を含めて5名(マネジメント歴約11年の筆者、リーダー2名、新卒3年目1名、新卒2年目1名)のチームで行ったものです。きっかけは、PMとしては未経験だったリーダーの1名に、案件のメインPMを任せることになったことでした。経験の浅いメンバーが多い体制でも機能する仕組みをつくる必要があり、この取り組みを考え、実践することにしました。
本稿の前提(想定読者)
想定読者:エンジニアからPMへのキャリア転換を検討している方、チーム運営に課題を感じているPM・リーダー層、属人化したマネジメントからの脱却を目指す方
本稿で扱う内容は、PMBOK(プロジェクトマネジメントの知識体系)などの体系的な知識そのものではなく、それをチームの日常業務に落とし込むための「前提づくり」と「習慣化」に主眼を置いています。
「個人戦」から「チーム戦」へ:前提の転換
マネジメントの改善に着手する際、多くの現場ではまず勉強会の開催やツールの導入から検討しがちです。しかし私たちが最初に取り組んだのは、ツールの選定ではなく「プロジェクトは個人ではなくチームで背負う」という前提への切り替えでした。
SESなどのIT現場では、以下のような構造に陥りやすい傾向があります。
- 人月という単位で契約が結ばれる
- 個人単位のパフォーマンスで評価される
- トラブル対応が特定メンバーの時間外対応で吸収される
この構造が続く限り、マネジメントは一部の経験者だけが担える特殊なスキルにとどまってしまいます。そこで私たちは、チームに対して「このプロジェクトは個人戦ではなくチーム戦として進める」という方針を明確に共有することから始めました。誰かの遅れはチーム全体の課題であり、誰かの抱えるタスクはチーム全体のタスクである、という認識を揃えることが出発点になります。


スキルの前に、目指す組織像を共有する
前提を切り替えた次に伝えたのは、具体的な業務スキルではなく「私たちはどのようなチームでありたいか」という組織文化についてでした。
目指したのは、指示がなければ動けない組織ではなく、メンバー各自が考え、判断し、行動できる組織です。
| 組織のタイプ | 特徴 | 弱点・強み |
|---|---|---|
| トップダウン型 | 統制が取れて安定しているように見える | PMがボトルネックになると、進行全体が止まりやすい |
| 自律分散型 | メンバーの思考と行動が自律的に駆動する | トラブル発生時も現場判断で軌道修正しやすい |
これは開発手法(スクラムかウォーターフォールか)の話ではなく、その手前にある組織文化の話です。PMの役割は、メンバーの行動を細かく管理することではなく、チームが目指す方向性を示すことだと考えています。
なぜ論理的思考がチームの共通言語になるのか
自律的なチームをつくるうえで重視したのが、論理的思考力です。コードを書く際の論理と、業務を進める際の論理は、似ているようで異なるものだと感じています。
チーム全体で論理的思考が共有されると、次のような変化が見られました。
- 目的から逆算して、指示を待たずに動けるようになる
- 「なぜその判断をしたのか」を説明できるようになる
- 自分のタスクの完了だけでなく、全体最適を意識できるようになる
ここで重要なのは、「主体性」と「独断」を区別することです。
- 独断:考えが整理されないまま、勢いで行動し、周囲に影響を及ぼす
- 主体性:課題に対する考えを整理し、周囲への影響を見込んだうえで行動する
この違いをチームの共通認識にしたことで、「無断で動いてトラブルを起こす人」ではなく、「自分で考えて先回りして動ける人」が増えていきました。
論理的思考を育てる3つの習慣
論理的思考は、生まれ持ったセンスというより、訓練によって身につけられるスキルだと考えています。私たちが実践したのは、次の3つのサイクルを継続することでした。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 1. 言語化する | 考えを曖昧なまま進めず、テキスト(TeamsやOneNoteなど)に書き出す |
| 2. 仮説を持つ | 行動した結果どうなるかを、事前に予測しておく |
| 3. 振り返る | 実行後、予測と結果のズレを確認する |
最初から完璧である必要はありません。むしろ、失敗から学びを言語化できるメンバーの方が、成長のスピードは速い傾向にあります。「完璧でなくてもアウトプットし、フィードバックを受けて修正する」というサイクルを回し続けることが、チーム全体の思考力を鍛えることにつながりました。


土台となるセルフマネジメント
チーム全体のマネジメント力を高めるうえで欠かせないのが、メンバー個々のセルフマネジメントです。他者のタスクを管理する前に、まず自分の状況を管理できる状態をつくる必要があります。具体的には、次のような取り組みを行いました。
- 自分の強み・弱みを客観的に把握する
- 仕事において大切にしている価値観を言語化する
- SMART(具体的・測定可能・達成可能・関連性が明確・期限がある)な目標を立て、定期的に振り返る
そして、PMやリーダー自身がこれらを実践するロールモデルであることも重要だと感じています。リーダーが期限を守らずに部下へタスク管理を求めても、説得力は生まれません。言葉で伝える以上に、行動で示すことが浸透につながります。
役割と期待値を明確にする
マネジメントがうまく機能していない組織の多くは、役割と期待値が曖昧なままになっています。「誰の担当か分からない」という状況を避けるため、レイヤーごとに役割を整理しました。
| 役割 | 判断する範囲 | 責任を持つ範囲 | 十分と言える状態 |
|---|---|---|---|
| マネージャー | プロジェクト全体の方向性・リソース配分 | 最終的な成果物の品質と納期 | 全体のリスクがコントロールできている状態 |
| チームリーダー | 担当モジュールの進め方・技術選定 | 自チームのタスク完遂とメンバー支援 | チーム内の遅延を検知し、対策を打てている状態 |
| メンバー | 割り当てられたタスクの実装方針 | 自身のタスクの品質と期限遵守 | 不明点を速やかに共有し、自走できている状態 |
役割と期待値の境界を明確にすることで、メンバーは自分の裁量の範囲を理解し、安心して判断・行動できるようになります。
PMBOKを「現場で使える形」に翻訳する
私たちが実践しているマネジメントの要素は、基本的にはPMBOKで整理されている領域(統合・スコープ・スケジュール・コスト・品質・コミュニケーション・リスク・ステークホルダーなど)と重なります。
ただし、体系的なフレームワークをそのまま現場に持ち込んでも浸透しにくいのが実情です。重要なのは、現場で今すぐ使える形に翻訳することだと考えています。
- リスクマネジメント → 懸念事項をTeamsやOneNoteに書き出す「気になることシート」の運用
- コミュニケーションマネジメント → 誰に・何を・どの頻度で共有すれば安心してもらえるかのチェックリスト
大掛かりなドキュメントよりも、「明日からの意思決定が少し楽になる」実用性を重視して設計しています。
導入の順序:文化が先、仕組みは後
管理ツールの導入や報告ルールの厳格化は効果的な施策ですが、文化が定着してから導入することが前提になると考えています。私たちはツールを選定する前に、次の3点をチームで話し合いました。
- そもそも何を管理したいのか
- トラブル発生時、何を報告し合うべきか
- 情報の透明性をどこまで保つべきか
この目線合わせが完了した後で、初めて実現しやすいツール(Backlogなど)を選定しました。順序を誤ってツールを先に導入すると、入力項目だけが増え、形骸化した運用になりやすいというのが実感です。


まとめ
今回の取り組みを経て、当初は未経験だったリーダーも無事にメインPMとしての役割を果たせました。個人の能力に依存せず、チームの前提や文化を整えることが、結果として個人の成長とプロジェクトの成功の両立につながると実感しています。
チームを「マネジメントが機能する組織」へ変えていくためのステップを紹介しました。プロジェクトマネジメントの成果を最終的に左右するのは、フレームワークの知識そのものよりも、次のような姿勢だと感じています。
- 困っているメンバーのサインを見逃さないこと
- 助けてもらった際に、感謝を言葉にすること
- 自分の意見を通す前に、相手の話を聞くこと
マネジメントは「人を動かすための管理技術」ではなく、「目の前の人と向き合う姿勢」の積み重ねによって成り立つものだと考えています。
次のステップ
- まずは自チームで「個人戦になっている業務」がないか棚卸しをしてみる
- 「主体性」と「独断」の違いをチームで言語化し、共通認識にする
- 役割と期待値の表を自チーム向けに作成し、認識のズレを解消する
本稿はチーム運営に関する一般的な取り組み事例の紹介であり、組織構造や業務内容によって適用可能な範囲は異なります。導入の際は、自チームの状況に合わせてご検討ください。















